パーソナルジムに前払いする前に見られる書類
回数券やコースをまとめて買うと、通う前に金が事業者の手元へ移ります。10回分、20回分と買えば、数十万円になることもあります。
その事業者が最後まで続いているかどうかは、渡す時点では分かりません。特定継続的役務提供(1か月を超えて続き、5万円を超える契約だけが対象になる決まり)には、確かめる道が1本だけ条文に用意されています。
5万円を超える前払いには、備え置く義務が付く
特定商取引法45条1項です。
役務提供事業者又は販売業者は、特定継続的役務提供に係る前払取引(特定継続的役務提供に先立つてその相手方から政令で定める金額を超える金銭を受領する特定継続的役務提供に係る取引をいう。次項において同じ。)を行うときは、主務省令で定めるところにより、その業務及び財産の状況を記載した書類を、特定継続的役務提供等契約に関する業務を行う事務所に備え置かなければならない。
「政令で定める金額」は特定商取引に関する法律施行令27条です。
法第四十五条第一項の政令で定める金額は、五万円とする。
役務の提供に先立って五万円を超える金銭を受け取るなら、この義務が付きます。
まとめ買いの回数券は、たいていここに入ります。1回8,000円の券を10回分買えば8万円で、通う前に払うことになります。
置かれるのは決算の書類
中身は特定商取引に関する法律施行規則105条1項が決めています。
法第四十五条第一項に規定する業務及び財産の状況を記載した書類は、貸借対照表、損益計算書及び事業報告書(会社以外の者にあつては、これらに準ずる書類)とする。
貸借対照表と損益計算書と事業報告書です。会社案内や実績の資料ではありません。
いつ作るかも同じ条の2項にあります。
当該書類は、事業年度ごとに当該事業年度経過後三月以内に作成し、特定継続的役務提供等契約に関する業務を行う事務所に遅滞なく備え置かなければならない。
条文が決めていること中身
- 何を置くか貸借対照表・損益計算書・事業報告書会社以外の者はこれらに準ずる書類。会社案内や実績の資料ではない
- いつまでに作るか事業年度ごとに、その事業年度経過後三月以内作ったら事務所に遅滞なく備え置く
- どこに置くか契約に関する業務を行う事務所本社ではなく、その契約の業務を行っている事務所
同じ105条の3項が、備え置いた日から三年を経過する日までの保管を求めています。過ぎた年度のものも、しばらくは残っていることになります。
月額で払う形には付かないことがある
45条1項の括弧書きは、前払取引を「特定継続的役務提供に先立つてその相手方から…金銭を受領する」取引と定義しています。読むところは「先立つて」です。
毎月の分をその月に払う形だと、役務の提供に先立って受け取っている額は1か月分にとどまります。1か月分が五万円を超えなければ、45条1項の義務は付きません。
一方、回数券やコースをまとめて買う形は、通う前に全額が事業者へ移ります。同じ店でも、選んだプランによってこの義務が付くかが変わることになります。
だから見るのは月額の数字ではなく、申し込んだ時点で先に払う額です。入会金を先に払う場合、その分も先立って受け取られた金銭に入ります。
閲覧と、謄本・抄本の交付
読者の側の権利が45条2項です。
特定継続的役務提供に係る前払取引の相手方は、前項に規定する書類の閲覧を求め、又は同項の役務提供事業者若しくは販売業者の定める費用を支払つてその謄本若しくは抄本の交付を求めることができる。
道が2つ並んでいます。事務所で閲覧すること、費用を払って謄本または抄本の交付を受けること。費用は事業者が定めるので、いくらかは聞くことになります。
条文が権利を与えているのは「前払取引の相手方」です。契約する前の段階でこれを求められるかは、条文の文言だけからは読み切れません。求めてみて断られた場合、その事業者はまだ相手方ではないと考えている、ということになります。
事務所に置く義務であること
45条1項は「事務所に備え置かなければならない」で、送る義務ではありません。遠方の事業者に対して郵送やメールでの送付を求める形にはなっていません。
遠くて行けない場合は、45条2項のもう一方、費用を払って謄本または抄本の交付を求める道が残ります。
オンラインで完結する契約が増えていますが、条文は事務所を前提にしたままです。申し込む前に、その事業者の事務所がどこにあるかを見ておくと、この道を使えるかどうかが分かります。
違反したときに何が起きるか
備え置いていない場合や、閲覧を断られた場合はどうなるか。読者がその場で書類を取り上げる手段はありません。
45条は事業者に義務を課す条文で、違反に対しては行政の側が動く仕組みになっています。指示や業務の停止といった処分がそちらに用意されています。
だから読者にとっての意味は、断られたこと自体が判断の材料になるというところです。義務が付いている取引で断られたなら、その事実を持って消費生活センターに相談できます。
もう一つ、断られなかった場合も見るところがあります。出てきたのが貸借対照表・損益計算書・事業報告書ではなく、会社案内やパンフレットだった場合、105条1項が求めているものではありません。何が出てきたかを控えておきます。
金を分けて置かせる法律は別にある
この条文が事業者に求めているのは書類を置くことで、前払いを受けた金を分けて保管することではありません。金の側に手当てを置いているのは資金決済に関する法律のほうで、回数券がその対象になるかは有効期限で分かれます。線の引き方はパーソナルジムが倒産したら回数券はどうなるかにまとめました。
同じ店でも、コースで分かれる
五万円という線は、店ごとに引かれるのではありません。その契約で先に払う額に引かれます。
このサイトが載せている ACCEPT(銀座)の回数券は、30分コースが5回38,390円・8回61,600円、60分コースが5回76,780円・8回123,200円です(税込)。60分コースは5回でも線を超え、30分コースは8回で超えます。
同じ店の同じ回数券でも、1回の長さと回数で45条1項の義務が付く側と付かない側に分かれます。どのコースを申し込むかが決まるまで、義務が付くかどうかも決まりません。
前払いの額を先に数える
- 回数券かコースか。まとめて何回分を買うのか
- 通う前に払う額はいくらか。五万円を超えるか
- 超えるなら、45条1項の義務が事業者に付いている
- 事務所の場所を確かめる。行ける距離か
- 概要書面(契約する前に渡される、料金と解約の条件を書いた書面)の前受金の保全措置の欄と、併せて読む
5番目は別の条文の話です。申し込む前に渡される書面には保全措置の欄があり、そちらは「措置を講じているか否か」を書かせる形になっています。保全措置の有無と、決算の書類は別のもので、両方を見ると前払いの risk が二方向から見えます。
総額の数え方はパーソナルジムの料金と相場の見方にまとめました。回数券の期間の数え方はヘッドスパの回数券は解約できるかにあります。
契約でもめたときの相談先は、消費者ホットライン 188 です。
支払い方法をクレジットにすると、事業者が止まったときに使える道が別に出てきます。そこはパーソナルジムの分割払いは道が増えるにまとめました。
まとめ
- 45条1項は、前払いが五万円を超える取引に書類の備え置きを義務づけている
- 施行規則105条1項の中身は貸借対照表・損益計算書・事業報告書
- 同条2項により、事業年度経過後三月以内に作成して遅滞なく備え置く
- 同条3項により、備え置いた日から三年を経過する日まで保管する
- 45条2項は閲覧と、費用を払っての謄本・抄本の交付を並べている