パーソナルジムが倒産したら回数券はどうなるか
10回分、20回分とまとめて買うと、通う前に金が事業者の手元へ移ります。その事業者が最後まで続いている保証は、渡す時点にはありません。
回数券のような前払いには、資金決済に関する法律が備えを置いています。ただし、多くのジムの回数券はその備えの外にいます。
回数券は「前払式支払手段」に当たりうる
資金決済法3条1項2号です。
証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品等又は役務の数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される物品等又は役務の数量に応ずる対価を得て当該数量の記録の加算が行われるものを含む。)であって、発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品等の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの
「役務の数量に応ずる対価を得て発行される」ものです。10回分という数量に対して先に金を払い、券を出せばその回数の役務を請求できる。回数券はこの形に入ります。
同じ3条の4項が、使える相手で区分を分けています。
この章において「自家型前払式支払手段」とは、前払式支払手段を発行する者(当該発行する者と政令で定める密接な関係を有する者(次条第五号及び第三十二条において「密接関係者」という。)を含む。以下この項において同じ。)から物品等の購入若しくは借受けを行い、若しくは役務の提供を受ける場合に限り、これらの代価の弁済のために使用することができる前払式支払手段又は前払式支払手段を発行する者に対してのみ、物品等の給付若しくは役務の提供を請求することができる前払式支払手段をいう。
そのジムでしか使えない回数券は、ここでいう自家型になります。
有効期限が六月以内なら、章ごと適用されない
ここが分かれ目です。資金決済法4条1項2号が適用除外を置いています。
発行の日から政令で定める一定の期間内に限り使用できる前払式支払手段
政令の期間は、資金決済に関する法律施行令4条2項が決めています。
法第四条第二号に規定する政令で定める一定の期間は、六月とする。
発行の日から六月以内にしか使えない回数券は、この章の規定が適用されません。供託の義務も、届出の義務も掛かりません。
発行の日から使用できる期間六月
六月以内
4条1項2号により、この章の規定は適用しない
六月を超える
章の規定が掛かる。ただし供託の要否は別の条で決まる
回数券の有効期限は3か月や6か月に設定されていることがあります。読者から見ると期限は短いほうが不利ですが、保全の面でも短いほうが外れます。期限が短いことは、使い切る負担と保全の外し方の両方に効いています。
当たっても、供託されるのは半分から
六月を超える回数券なら章が掛かります。それでも全額が守られるわけではありません。14条1項です。
前払式支払手段発行者は、基準日未使用残高が政令で定める額(以下この章において「基準額」という。)を超えるときは、当該基準日未使用残高の二分の一の額(以下この章において「要供託額」という。)以上の額に相当する額の発行保証金を、内閣府令で定めるところにより、主たる営業所又は事務所の最寄りの供託所に供託しなければならない。
読むところが2つあります。義務が生じるのは基準額を超えたときだけで、そのときに供託するのは二分の一の額以上です。
基準額は施行令6条1項にあります。
法第十四条第一項に規定する政令で定める額は、千万円とする。
基準日未使用残高供託の義務
- 有効期限が六月以内章の規定が適用されない残高がいくらでも、この法律の供託は掛からない
- 千万円以下供託の義務は生じない基準額を超えたときの規定なので、下回っていれば対象外
- 千万円を超える二分の一の額以上を供託全額ではない。残りは供託されていない状態で残る
店舗が数店のジムで、未使用の回数券の残高が千万円を超えるかどうかは、外から見て分かりません。確かめられるのは有効期限のほうです。
供託されていれば、先に受け取る権利がある
供託まで進んでいる場合には、31条1項が保有者の側に権利を置いています。
前払式支払手段の保有者は、前払式支払手段に係る債権に関し、当該前払式支払手段に係る発行保証金について、他の債権者に先立ち弁済を受ける権利を有する。
「他の債権者に先立ち」なので、供託された発行保証金については他の債権者より先に受け取れます。ただし対象は供託された分だけで、供託されていない残りには及びません。
同じ条の2項には、受け取るための手続が書かれています。
内閣総理大臣は、次の各号のいずれかに該当する場合において、前払式支払手段の保有者の利益の保護を図るために必要があると認めるときは、前項の権利を有する者に対し、六十日を下らない一定の期間内に内閣総理大臣に債権の申出をすべきこと及びその期間内に債権の申出をしないときは当該公示に係る発行保証金についての権利の実行の手続から除斥されるべきことを公示しなければならない。
公示された期間内に申し出ないと、手続から除斥されます。権利があることと、受け取れることは別になります。期間は六十日を下らないと決められているので、公示に気づくかどうかがそのまま結果に効きます。
有効期限が書かれていない例
期限が六月以内かどうかで扱いが変わるのに、その期限が公表されていないことがあります。
このサイトが載せている MIYAZAKI GYM は、特定商取引法に基づく表記の支払時期の欄に「コース・回数券は契約時または初回予約日前まで」と書いています。回数券という語は出てくるのに、その有効期限は同じページに見当たりません。同じページの「申込みの有効期限」は体験やカウンセリングの予約が確認連絡で確定することの説明で、購入した回数分をいつまでに使うかとは別のことです。
読者の側からは、この状態では資金決済法の章が掛かるかどうかを判定できません。確かめる先は契約書面と規約になります。コースの価格は8回96,800円から48回369,600円まで税込で並んでいるので、金額の側は先に分かります。
特定商取引法の側には別の道がある
資金決済法とは別に、特定継続的役務提供(1か月を超えて続き、5万円を超える契約だけが対象になる決まり)には、事業者の財産の状況を見る道が用意されています。特定商取引法45条で、5万円を超える前払いの相手方は、事業者の事務所に備え置かれた書類の閲覧を求められます。
そこはパーソナルジムに前払いする前に見られる書類にまとめました。資金決済法が金を分けて置かせるのに対し、特定商取引法は状況を見せるところまでです。
渡す前に確かめること
- 回数券の有効期限。六月以内かどうか
- 期限が切れたあとの扱い。延長できるか、失効か
- 契約書面の「役務の提供期間」の欄と、回数券の期限が一致しているか
- 5万円を超えるなら、45条の書類を見せてもらえるか
3番目がずれていることがあります。契約は12か月なのに回数券の期限が6か月、という形です。期間の書き方はパーソナルジムのクーリングオフ条件で扱いました。
回数券をまとめて買ったあとにやめる場合の精算はパーソナルジムの中途解約と請求できる額の上限にあります。
契約でもめたときの相談先は、消費者ホットライン 188 です。最寄りの消費生活センターにつながります。
まとめ
- 回数券は資金決済法3条1項2号の前払式支払手段に当たりうる
- ただし4条1項2号と施行令4条2項により、有効期限が六月以内のものは章ごと適用されない
- 章が掛かっても、14条1項の供託は基準日未使用残高が基準額を超えたときだけ
- 基準額は施行令6条1項で千万円。供託されるのは二分の一の額以上で、全額ではない
- 供託された分には31条1項の優先弁済権が付くが、公示された期間内に申し出ないと除斥される
- 特定商取引法45条は金を分けさせるのではなく、書類を見せる仕組み